遠雷

誰かにとっての花火に撃ち抜かれて此方

2.5次元出の若手俳優おたくに対する所感

定期的に学級会の俎上にあがる「2.5次元舞台からの俳優おたくは善か悪か」みたいな話題について。
私は基本的に、SNS上や会場での行儀が良くて、金を落として、俳優本人を不快にさせないおたくなら別にきっかけが2.5次元でも何でもいいと思う。自分が2.5次元由来の沼落ち民だったから余計にそう思うのかもしれないけれど、でも普通に生きていたら「金を払って舞台に足を運ぶ」なんて若い子女はなかなかしないと思うので、2.5次元はかなりライトな入口なのではないかと思う。
そして、「2.5次元を入口にしたおたくでも、1年以上追っか続けられたら許されていいんじゃない」という結論にふと至った。風呂場で。大抵こういう脈絡もない結論がぽっと浮かぶのが風呂場である。

私は2.5次元ミュージカルでとある若手俳優のおたくになり、4年半ほど追っかけをしていた。今は降りているけれど。で、本命俳優のほかに所謂二推しも大勢いた。MAX7人いた。二推しの概念崩壊。
私の推し基準は明確で、「何公演でもチケットを積みたい(実際平日昼公演以外は全部行っていた)」のが本命、「舞台は観に行きたいけれど1タイトル1公演でいい」が二推しだったため、「ちょっと気になる」レベルの俳優の出演作も割と気軽に観劇していた。
先に述べた「1年追っかけたら」という話だが、最近の若手俳優は今は亡きAiiAやZeppブルーシアターのような2000人規模の劇場から、赤坂REDや青山DDDなどの200人くらいの劇場まで、様々な作品に出演する。私の友人がかつて「推しが毎月何かしらの舞台に出演していて、追いかけるのは大変だけど楽しい」と言っていたように、規模に拘らなければコンスタントに仕事が続く俳優もいる。私の二推し達は幸いにも(というより、私がある程度人気と実力のある俳優ばかり好きになったからだが)出演作が続いていたため、私も本命の仕事がない期間はふらふらと色々な劇場へ足を運んだ。
さて、ひとりの俳優をゆる~くでも約1年、追っかけると何が起きるか。

クソつまらない舞台への遭遇である。

クソつまらないというと語弊がある。まろやかに表現すれば、自分の趣味嗜好に合わない作品を観劇しなければならない状況、である。そんな作品に推しが出演してしまう機会は、若手俳優のおたくをしていれば絶対に避けられない。絶対に、これは絶対にである。
推しは仕事を選べない。同様に、推しを人質にとられているおたくもまた、推しが出演している以上、観る作品を選べない。ゆえにそういう悲劇が起きる。最近も、LGBTの方々に著しく配慮されない映画に出演した俳優が製作の巻き添えで叩かれる事案が発生したらしいが、私は寡聞にして詳細を知らないのでここでは敢えて語らない。推しが、自分の好むような作品に出演し続けてくれる俳優であれば言うことないが、知名度が高くない俳優であればあるほど遭遇率は高いように思う。
私は本命を降りたのも(私にとって)つまらない舞台を延々見させられたからだが、本当に、自分の好みに合わない作品を安くない金を払って見続けるのは精神的にかなりの苦痛を強いる。つまらないなら見るなという議論は個人のスタンスに因るので割愛するが、私はパブリックに提供された推しの姿をすべて確認したいタイプのおたくだったため、その作品に推しが出演している以上観ないという選択肢は採れなかった。平日昼公演は、有給日数の都合もあり断念したが、幸い当時の勤務地が麹町で大抵の劇場には30分程度でアクセス可能だったため、定時ダッシュで通える公演はすべて通った。少ない給料をやりくりして、服やごはんを我慢して、交通費も節約して、やっとの思いで観た作品がクソつまらない。おまけに推しの出番が極端に少なかったりする。なかなかに地獄である。
勿論、推しの出番が少なくても見応えのある作品もあるし、観続けるうちに(感覚が麻痺して…)面白くなって、最終的に「あーおもしろかった」で千秋楽を迎えられる作品もある。
だがそうでない作品にも遭遇する確率が高いのが「若手俳優の追っかけ」という趣味の醍醐味でもある。

1年も通えば、その俳優の作品を3~4本は見られるし、事務所の方針によっては接触イベント等に参加する機会もあるだろう。若手俳優おたくとしては入口が2.5次元であったとしても、1年も追っかけ続ければ、そういうのの積み重ねで次第に作品のキャラ以上に俳優のパーソナルな部分を好きになり、作品関係なく「彼の演技が観たいから行く」にシフトできている気がする。

というか、これらはすべて、単なる私個人の経験論である。
私は「好きなキャラを素敵に演じてくれた」という理由で若手俳優を何人か二推しとして応援したが、「キャラを応援してくれた感謝」で1年以上通い続けられた俳優はいなかった。出演作が好みに合わなかったり、あのキャラの演技は好きだったけれど他作品での演技は好きじゃないなと思ったり、単純に予定が合わなくて観られなかったりもあったけれど、とにかく1年保たなかった気がする。通い続けられた二推しは本命に取って代わり、本命になった頃には俳優の演技や個性が大好きになっていたため、好きの入り口になったキャラクターも「彼が演じた役のひとつ」として大切にできるようになっていた。思い入れは段違いだけれども、それは各人の記憶で脚色されがちなものだし、日頃喧伝するものでもないのでまあよしとする。
色々見たなあ。恐るべき子供たち、歌姫、刀のミュージカル。紅き谷のサクラ、さがり、錆色のアーマ、破壊ランナー、遠い夏のゴッホ。頭の中の消しゴム、カレーライフ、ロボロボ、里見八犬伝、俺とお前の夏の陣、ONLY SILVER FISH。儚みのしつらえ、猫の裁判、GoWest、ホテルカルフォリニア。振返ってみれば、二推しでも1年近くゆるく追っかければ4作品くらいは観ているものなんだなあ。
つまんなすぎてキレながら帰った作品もあれば、1回しか見ていないのに衝撃的過ぎて未だに心にこびりついている作品もあるし、若手俳優の追っかけはそういう意味でもなかなか博打な趣味だとつくづく思う。個人的に、私は若手俳優の追っかけを、俳優本人のストーキング的な意味ではなく(私は出待ちなるものをしたことがないが)「作品との出会いの場」だとも思っている。
基本的には「この俳優の演技が好きだから」出演作はすべて観に行きたいのだけれど、その作品そのものに惚れ込むことができれば、「こんなに素晴らしい作品に出逢わせてくれた彼に感謝したい」と思わせてくれることがあるからだ。「星の王子さま」や「女海賊ビアンカ」が私にとってのそれにあたる。そういう経験が一度あると、その俳優の出演作に通うのがもっと好きになるし、俳優自身のことももっともっと好きになって、もっともっともっと応援したくなる。
若手俳優おたくのいいところは、出演作によって好きがどんどん上塗りされる(できる)ことと、逆に出演作によってその俳優を応援する気がゴンと失せるところかなと思う。私の場合だが。

なので1年ばかりその俳優を追えば、いい具合にキャラ萌えの熱も冷めて俳優個人に着目することができるし、ある程度時間やお金をかければ諦めもついたりする。○○くんを演じる俳優には二度と逢えないのね、という現実が、漸く見えてきたりする。逆に、大千秋楽が終わってとあるキャラへのガチ恋を拗らせたりするのもまた舞台との出会いである。たぶんね。
だから一概に2.5次元出のおたくがどうこうも言えないし、マナー違反をしている訳でないなら外野がとやかく言うものでもないのかなと思う。入り口はどうあれ、そのおたくが、その沼の中でどう生きるかが肝要なのだなあと思う今日この頃である。
語尾に「※すべて個人の感想です」を付けた方がいい気がしてきた。