遠雷

誰かにとっての花火に撃ち抜かれて此方

菊池風磨が選ぶ「まだ見ぬ永遠」

私は菊池風磨渋谷すばるを重ねていたのだと気付いた。私がSexyzone沼に足を踏み入れたのは、関ジャニ∞ の分解に耐えられなかったからだ。というより、 自担の脱退を受け容れられなかった。 当時私生活でも色々とあって早急に急激な癒しを求めていた私は、 ゴチで姿を見掛ける度気になっていたセクシーサンキューの子に縋 りつき、今は中島担となっている。
渋谷すばる錦戸亮から、おたくから、永遠を奪った。
一生、ずっと、じいさんになっても、こうしていよう。 そんな夢物語を誰よりも言葉の筆で描いたすばるくんを、 私は大嘘つきだと思って泣いた。大倉くんの言葉を借りれば、「 すばるくんの決断を勝手だとは思ったけれど、 どうしてもすばるくんを嫌いにはなれなかった」から苦しかった。 けれど一番つらいのは関ジャニ∞のメンバーだと思い、 遺されてセンターとエースを兼任すべく奮闘した錦戸くんの気持ち を想って、また泣いた。勝手に。おたくはいつも独り善がりだ。


私は風磨くんを一目見た時、 彼はSexyzoneの異分子だと思った。 本人もそれを認めているらしい。B.I. Shadowから健人くんと選抜でデビューが決まったけれど、 旧グループのメンバーの気持ちを想うと積極的にはなれなかったと いう風磨くん。 Sexyzoneというグループ名を今でも改名したがっており、 王道系アイドル路線からは一線を画した態度を崩さない。 けれどそれが良いスパイスとなって、 彼の個性を生かしている気がする。
ある人が彼をして、「 風磨くんは性格的にSixTONesのようなノリが好ましいのか もしれないが、 SixTONesでデビューしたらきっと今ほどの人気はでなかっ た。親友は田中樹でも、 ビジネスパートナーとしてのシンメは中島健人しか務まらないだろ う」と評した。 それは私が今迄風磨くんに抱いていた違和感を的確に言い当てるも のだった。
確かにデビュー当初は風磨くんが望むアイドル像ではなかっただろ う。 グループの半数を占める年少組にキーを合わせた可愛らしい曲調、 王道アイドル路線の衣装や演出、 そして三人体制というデビュー後にも拘わらず突きつけられた格差 。オトナの事情に振り回され、したいこともできず、 鬱憤も溜まっていただろう。そんな中、 同じ境遇で同じ目線を持つはずの健人くんと分かり合えなかったか らこそ生じたのがふまけんの氷河期であるし、 逆にきちんと言葉を交わして相手を理解するよう努めたからこそ、 彼等の努力によって一度は生まれた溝は埋められた。 デビューも9年目になった2020年、メンバー全員が成人し、 それぞれ芸能界でもプライベートでも様々な経験を積み、 王道ながらもスタイリッシュで大人っぽいグループへと舵を切りつ つある。
けれど、私の中ではずっと、 風磨くんはずっといつかSexyzoneを辞めるだろうなという 確信が拭えなかった。それは、 風磨くんがどれほどSexyzoneのために尽力していても、 彼はいつかSixTONesの方向に進むことを我慢できないだろ うと思ったからだ。 SexyzoneはSexyzoneであってSixTONesに はなれないし、 同じ事務所に似た方向性のグループはふたつも要らない。 だからこそ、 菊池風磨SixTONes的な表現者を目指す限り、いつか「 方向性の違い」は確実に訪れるだろうし、 最近の事務所の傾向からすると、 事務所を辞めても表現のしようはある。 テレビに出られなくてもインターネット上で人気を博せば、 歌で食べて行ける。 今やめないのはSexyzoneとしてグループに箔がないからだ 。箔とは、 彼がよく言うCD売上枚数でもコンサート動員人数でもいいし、 海外公演の成功でも、冠番組でも何でもいい。 何も為していないのに辞めるのは、「 中学時代の部活で完全燃焼できなかったから」 という理由でアイドルを志した彼の在り方に一貫性がないし、 何より世間に「途中で放り出した」印象を与える。 そういうダサい真似を、彼は好まないだろう。
何より、風磨くんはメンバーのこともファンのことも、 とても大切に思っているのだと、 最近彼をゆっくりと咀嚼できるようになっていた。

風磨くんは嵐の櫻井翔関ジャニ∞村上信五安田章大と仲良くしているという。いずれも、 解体の危機に瀕したグループにあって、 グループに残ることを選んだ者たちだ。彼らはグループを愛し、 メンバーを愛し、 多分生涯をかけてアイドルであり続けることを選んだ人間だ。 勿論今後のことはどうかわからないけれど、少なくとも関ジャニ∞大倉忠義の「今後誰か一人でも欠けることがあったら、 もうグループとしてはおしまいだと思う」という呪いがある。 身体の不調がない限り、関ジャニ∞ からはこれ以上脱退者は出ないだろう。というより、 丸山隆平が錦戸くんの脱退時に述べたように「 今後の人生を各自が真剣に考えたうえで、 グループに残る決断をした人と、残らない決断をした人がいた。 その差」だと述べたように、今関ジャニ∞に留まっている五人は「 自身の進退を真剣に考え、グループに残ることを選んだ」 者たちなのだ。だから、そう簡単には欠けることはないだろうし、 欠けさせないように(ギスギスしない意味で) 互いを見詰めていると思う。監視ではなく、互いを見詰め、 思いやり、居心地のいいグループを作ろうと努力するのだろう。
私は風磨くんをすばるくん寄りの人間だと思っていたから、「 いつかグループを辞めるのに、 辞めなかった人から何を学ぶのだろう」 とずっと疑問に思っていた。 風磨くんはすばるくんほど歌にのめり込んでいないというか、 歌と心中するような覚悟ではないにしろ、 それでも歌で生計を立てたいタイプの人間だろう。 だから芸能界で生きていくつもりではあるだろうけれど、 Sexyzoneに固執する必要もないと考えていそうだ。 そう解釈していた。
だとしても、すばるくんはファンのことも、 メンバーのことも大切にしていた。 けれどグループを辞めることを選んだ。 風磨くんが仮にすばるくんと同じく、 自身がアイドルの肩書を背負う期限を付けているとする。 けれどすばるくんと決定的に違うところは、 彼には中島健人というシンメがいることだ。
すばるくんは関ジャニ∞のセンターだった。 7人という奇数人数のグループの場合、 センターはとても収まりがいい。特に関ジャニ∞ は年長組と呼ばれる横山・渋谷・ 村上は同年代でデビュー前からの幼馴染的な関係といってもいい。 けれど、横山村上はヨコヒナとしてずっとコンビ売りをして、 人気を博し、今も愛されている。 明確に事務所から言いつけられたシンメではなかったかもしれない が、事実上の対、 ビジネス上の運命共同体といって差し支えないのではないかと思う 。
渋谷すばるにはそれがなかった。
横山・渋谷・ 村上の所謂三馬鹿トリオの仲が悪かったわけでは決してない。 渋谷と村上のコンビ「松原.」も、横山と渋谷のコンビ「 よこすば」も、それぞれとても仲が良かった。 渋谷は司会者として場を仕切ろうとする村上をいつもピンポイント で笑わせようとしていたし、 よこすばはプライベートでしょっちゅう旅行に行っていた。 けれど、コンビであってシンメではない。東のタッキー・ 西のすばるというのも、対ではなく対立関係だし、シンメという「 競い合うライバルでありながらも見えない絆で結ばれている」 微妙なニュアンスはそこには感じない。
自身の進退を決めるのに、 友情だけでは残り続ける理由にならないのだ。
確かに、幾ら仲のいい友人同士でも、 仲がいいだけで同じ大学に進もうとはしない。自身の生活環境、 やりたいこと、 今後の将来設計を慎重に鑑みたうえで進路を決める。 それはある意味、 例え同じグループのメンバーという運命共同体であったとしても、 それは人数分の一になってしまう。
けれどシンメは、自分と相手、一対一の関係だ。 鏡のようにいつも傍にいる存在。特に、 シンメは自称ではなく事務所の都合で変動する流動的なコンビであ るため、 いくら運命的な繋がりを持っていてもある日突然解消されることも ある。けれどふまけんというシンメ、菊池風磨中島健人は、 一週間違いで入所してからずっと、デビューしてからも、 アイドルである期間をずっとシンメとして過ごしてきたのだ。 だからこそふまけんが運命的と呼ばれる所以なのだろう。
菊池風磨が持つものを中島健人は持たない。逆に、 中島健人が持つものを、菊池風磨が持たない。凸と凹。 互いが互いの欠けたものを補いながら、支えながら、 理解しあって、時に背中合わせに、 時に鏡に相対するように向き合って立つ存在。 以前は壁でしかなかった互いが、 今はかけがえのない相棒でありパートナーとして受け容れることが できている。そんな相方を、情の深い彼が、 情け容赦なく置き去りにするとはとても思えない。
風磨くんはなかなか愛が重い男だ。 一度懐に入れた相手は心底大事にするし、一途だし、 一度愛すれば、 惜しみない無償の愛情を家族以外の相手にでも注げる。 結婚を前提にできるような相手でなければ付き合わないというくら いだから相当だ。仲間や親友、家族を大切にする男。そんな彼が、 ビジネスパートナーであっても、苦楽を共にし、 家族よりも長い時間を共有し、何よりも自身を慕う、 子供のように純粋なひとつ年上の相棒を捨ててまで選ぶ道が、 あるだろうか。
以前は確かに、Sexyzoneはいばらの道を歩いてきた。 しかしそこから逃げずにずっと歩いてきたお陰で、 道は踏み固められ、彼等自身も多くの武器や言葉を持ち、 強く逞しく成長した。以前は傷ついた茨の棘にも、 対処できるようになった。棘の傷を治し、時に茨を払い、 仲間を守ることも周囲に助けを求めることもできるようになった。 風磨くんはシェイクスピアの大きな主演舞台を成功させたし、 バラエティの仕事も増え、表現の幅も広がりつつある。 やりたいことができる環境が整って、 それを理解し応援してくれる仲間がいる。 確かにシンメとして組まされたのは偶然かもしれない。けれど、 それが続いている現在と言う事実に勝運命もないのではないだろう か。
私は未見だが、少年倶楽部ジャニーズWESTの小瀧くんが「 風磨はWESTに入ったらいい」と言った時、 Sexyzoneの4人は全員すぐに引き留めたという。 場の流れとしては、誰も引き留めずに風磨くんが「おい!」 とツッコんで終わるのがテレビらしい流れだが、 Sexyzoneは「それがテレビ的であるかどうか」ではなく「 自分がやりたいかどうか」で行動する。 Sexyzoneには菊池風磨が必要で、 ずっとSexyzoneでいてほしい。だからこそ、 例え冗談でも風磨くんがいなくていいとは言わない。 風磨くんはそういう真面目で仲間に優しいSexyzoneが好き なのだろう。
STAGEコンだったかで、風磨くんは「 Sexyzoneを頑張る」と発言したという。 今迄は事務所に不満があり、したいことができない苛立ち、 聡マリに対するもどかしさから、 仕事にも身が入らないこともあったという。 私はその頃を伝聞でしか知ることができないけれど。けれど、 その風磨くんが気持ちを新たに、 Sexyzoneに正面から向き合う決意を固めたのだ。それは、 一途で重い愛を掲げる彼が、真直ぐに、 Sexyzoneという不器用なほど優しいグループと心中する覚 悟を固めたということなのではないだろうか。 一度回り道をした分、その贖罪を、風磨くんは真摯に行うだろう。 根は真面目で優しいのだ。
渋谷すばるが連れて行ってしまったから、この世には永遠がない。 だから、始まったものにはいつか必ず終わりがやってくる。
でも、風磨くんは彼のシンメの中島健人を置いて、多分まだ、 何処かへ行ったりはしないだろう。 何処かへ行ってしまうとしても、 それは健人くんが風磨くん以外の誰かを見つけた時のような気がす る。けれどふまけんは、 互いがふまけんという互いを誰よりも特別扱いして、 大切に守っている気がする。
風磨くんと健人くんがふたり手を繋いで、笑いあっている未来が、 「永遠に続けなんて願わないから、せめてあと少しだけ」。